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近時の支援事件無罪判決の分析・評価と支援事業のインパクト(効果)

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 この度、当財団の支援事件で相次いで無罪判決が出ております。その内容と財団支援の意義についてご報告します。

1 今西事件 (当財団1号支援事件)
 この事件は、被害者とされるXちゃんの母親の交際相手であった今西貴大さんが、傷害、強制わいせつ致傷、傷害致死の3つの犯罪を犯したものとして訴追された事案でした。
 今西さんは一貫した無罪を訴えてきましたが、一審では傷害については無罪となったものの、強制わいせつ致傷、傷害致死の2つの事件では有罪となってしまい、懲役12年の判決が宣告されていました。
 その後、検察側は無罪となった傷害について、弁護側は有罪となった強制わいせつ致傷、傷害致死についてそれぞれ控訴し、控訴審での審理が係属してきました。
 2024年11月29日、大阪高等裁判所第3刑事部で判決が言い渡され、検察側の控訴は棄却された一方で、弁護側の控訴は全て認められて一審の有罪判決が破棄され、今西さんは全部無罪の判決を受けました。
 現在、検察官が上告中であり、いまだ無罪判決は確定していません。
 この事件の特徴は、被害者とされるA子ちゃんの「身体に残った損傷、検査結果や治療経過等の医療記録、担当医らの診断や医学的所見等の客観的な証拠がある一方、被告人の自白はなく、事件性及び犯人性を直接立証し得る物証や目撃供述等が存在しない」という点にあります。(控訴審判決3頁)
 この事件では、当財団でアドバイザー弁護士を務める秋田真志弁護士が弁護団に加わっていたことから、総合支援の必要性はなかったものの、多額の資金支援を行いました。具体的には、控訴審における医師の鑑定等の費用として170万円を支援しました。
 まさに先端的弁護を実践する秋田弁護士をはじめとする弁護団の弁護士らの活躍と、十分な資金援助を背景に、必要な専門家から十分な支援を得られたことが、今回の逆転無罪判決につながっています。
 そのことは、判決文からも読み取れます。控訴審は事後審であるために、判決では、まず原審で取り調べられた証拠関係から、原判決の当否を検討する判断構造を取ることになります。そのため、判決文からは相当わかりにくい面もありますが、傷害致死の点について、控訴審で新たに弁護側からQ医師(放射線科医)、R医師(病理医)が請求・採用され、検察側からS医師(小児放射線科医)、T教授(法医)が請求・採用され、それぞれ法廷で証言したことがわかります(控訴審判決69頁以下)。
また、強制わいせつ致傷の点については、弁護側から、控訴審で、新たにL医師(肛門科)が請求・採用され、検察側からは、M医師(皮膚科)、N医師(消化器外科・小児外科)が請求・採用され、それぞれ法廷で証言したこともわかります(控訴審判決26頁)。
 いずれの争点についても、弁護側が請求した専門家証人の信用性が十分吟味され、裁判所が各証人の証言の信用性を認めています。
 刑事裁判で、これほど多数の専門家証人が証言することは異例です。ただ、より意識しなければならないことは、弁護側と同数、あるいはそれを上回る数の専門家証人を検察官は請求し、証拠として採用させていることです。検察側には、専門家証人を何人呼んでも対応できるだけの潤沢な予算があること(資金力)、必ず何かしらの伝手で専門家証人を呼べる組織力があることがよくわかります。これこそ、刑事弁護人が直面する圧倒的な格差であり、通常であれば、この格差によって無罪主張は踏みつぶされてしまうことでしょう。
 今回、当財団が、多額の資金支援を行ったことで、上記の格差の一部が解消され、無罪判決につながったことはとても喜ばしいことであるとともに、一個人の標準的な資力では闘えない現代の刑事裁判の異常さ、無罪獲得の困難さをも浮き彫りにしているものと思います。


2 横浜地裁令和7年1月16日判決(傷害致死被告事件)
 この事件は、横浜県内にある保育園に勤務する保育士が、保育室内にいたYちゃんに対し、暴行を加えて死亡させたとして訴追された事案でした。
 この事件の弁護団は、当初より、ご本人の訴えに丁寧に耳を傾け、無罪主張のために当財団に総合支援の申込みをしました。その結果、アドバイザー弁護士に秋田弁護士が就任することになりました。この事件も、今西事件同様、当財団の支援事業開始の最初期に支援決定をした事件でした。
 その後、秋田弁護士の助言・指導を受けながら、専門家の協力を得て、弁護団は公判審理に臨みました。かかる刑事弁護活動に対して、当財団は100万円以上の資金を支援しました。
その結果、2025(令和7)年1月16日に無罪判決が出され、確定しました。
 この事件についても、「本児(Bちゃんのこと)が本件犯行時間帯に生じた公訴事実記載の傷害により死亡したと認められるか…を判断するためには、専門官証人の証言等により、前期傷害が死因であるかだけでなく、その受傷時期が本件は脳時間帯に絞り込めるかが問題となる」旨指摘されており、今西事件と類似する争点が形成されています(判決文4頁)。
 そのために、裁判所は、検察側請求証人として解剖医、法医人類学者、小児神経外科医を、弁護側請求証人として小児科・発達神経病理医、小児科・小児神経病理医、脳神経外科医を採用し、証人尋問を実施しました。
 判決においては、検察側が請求した専門家証人の証言が、弁護側の専門家証人と矛盾・対立する点が数多くみられ、一部の意見に関しては検察側証人間でも意見の一致が見られていないこと等を踏まえて、検察側の専門家証人の証言の信用性が否定されています。
 その結果、検察側請求の解剖医の証言について「本児の死因及びその機序を合理的に説明する医学的根拠を示すことができていない」という判示(判決文14頁)や、同じく検察側請求の小児脳神経外科医の証言についても同様の判示が導かれました(判決文15頁)。さらに、そもそも受傷時期が公訴事実記載の時期以前であった可能性についても、弁護側証人の意見の信用性を認め、検察側証人の意見を排斥しています。弁護側が請求した専門家証人の証言が、裁判所の判断に相当インパクトを与えた様子が、判決文から窺い知れます。
 もちろん、本事件を担当した弁護団の先生方が、最も力を尽くされ、無罪確定を実現する最大の功労者であったことは間違いありませんが、当財団の委託に基づくアドバイザー弁護士による弁護活動全体への支援、さらには専門家の協力を得る段階での資金面への支援も、無罪確定につながるものであったことは間違いありません。


3 横浜地裁令和7年1月21日判決(傷害、傷害致死被告事件)
 この事件は、被害者とされるZちゃんの母親と交際していた被告人の男性が、Zちゃんに対して、傷害、傷害致死を犯したものとして起訴された事案でした。
 この事件の弁護団も、無罪主張のため、当財団に総合支援の申込みをしました。その結果、アドバイザー弁護士に高野隆弁護士が就任することになりました。
 その後、高野弁護士の助言・指導を受けながら、弁護団は弁護活動を行っていきました。専門家2名の協力を得て、公判審理に臨みました。
 その結果、2025(令和7)年1月21日に無罪判決が出されました。現在、検察官が控訴中であり、無罪判決は確定していません。
 この事件では、傷害の争点は、公訴事実記載の日時に被告人による暴行があったか、であるとされ、傷害致死の争点は、被告人の暴行により本児が死亡したと認められるか、でした。
 傷害の点は、犯行日時を特定する証拠としてZちゃんの母親が証言台に立ちましたが、その証言が、捜査段階の供述や保育園の記録などの別の証拠と矛盾しており、法廷証言の信用性が否定されました。判決文からは、法廷で弁護側がどのような弾劾の尋問を行ったのかを窺い知ることはできませんが、捜査段階の供述からの変遷は、弁護人が反対尋問で突く典型的な獲得目標であるにも関わらず、実際上は獲得に失敗し、証言の信用性が減殺されない事案が散見されるところ、本件では見事に弾劾に成功しているようです。この点、アドバイザー弁護士の高野弁護士からの助言・指導が奏功した結果であることが窺えます。
 次に、傷害致死の点は、判決文から、総勢6名の医師が法廷で証言したことがわかります。検察官請求の専門家証人が何名なのか具体的には明らかではありませんが、弁護側が請求した脳神経外科医の意見が排斥できないことを主たる根拠として無罪判決が導かれています。
 この事件でも、弁護を担当した先生方が尽力された結果、無罪判決が実現したことは間違いありませんが、アドバイザー弁護士のサポート、専門家証人の協力も、無罪判決獲得の大きな力となったことが判決文からも読み取れます。

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